軍事情勢レポート6 皇国の興廃この一戦にあり 3

軍事研究家・黒井執斗氏による最新軍事情勢レポートの第6弾、パート3です。



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『 皇国の興廃この一戦にあり 』            (軍事研究家 / 黒井執斗)

さて、韓国絡みの話はこの辺りで一旦置いて、日本にとって遙かに重大な局面を迎えている沖縄方面の話題へ移ります。

沖縄周辺領海のすぐ外縁、いわゆる接続水域において、「国籍不明の潜水艦」が3度にわたり潜航するのが確認されました。5月2日には鹿児島県・奄美大島の西の海域にて、12・13日には沖縄県・久米島南方にて、19日には沖縄県・南大東島近海にてです。

かつての大東亜戦争において日本は幾つもの戦訓を得ましたが、その一つが海上輸送路安全確保の重要性です。ろくに護衛も付けずに徴用商船で物資や人員を輸送した為、米潜水艦の魚雷攻撃でことごとく撃沈されて多大な損失を被りました。

この潜水艦に関してはトラウマのようなものがあり、海上自衛隊は多数のP-3C対潜哨戒機やSH-60対潜ヘリを保有・運用し、絶えず機器のアップデートも行い、世界トップレベルの哨戒任務を日々行っています。

米ソ冷戦時代にはソ連の潜水艦を太平洋に出さないのが海自の任務の一つでしたが、オホーツク海や日本海でソ連原潜部隊を追い回し、経験を積んできています。

また、新型の国産哨戒機P-1が完成し、納入が始まった事も以前にご紹介したと思います。

潜水艦が作戦任務に就くとき、すなわち潜行行動するときには隠密行動が大原則になります。敵に見つからず潜んでこその潜水艦であり、見つかってしまった時点で恥ずべき大失態なのです。

海自が設置・運用しているとされる水中固定聴音装置か、それとも米海軍が設置しているとされるSOSUS(ソーサス)と呼ばれるソナー監視ラインか、はたまたP-3Cによる哨戒活動で磁気検知に成功したのか定かではありませんが、いずれにせよ潜水艦の存在が明らかになりました。

おおよその位置を特定した後、哨戒機は「ソノブイ」と呼ばれる音響探知用のブイを海面に投下します。まずはパッシブソナーで海中の音を収集し、更に位置を絞り込んでいきます。

海中では周波数の高いレーダー波や一般の通信電波は著しく減衰してしまいますから、潜水艦側も、それを見つける側も音波を用いてセンシングする事になります。

潜水艦の位置を絞り込むと同時、潜水艦の発する音、いわゆる「音紋」が収集されます。音紋は船体及びスクリューの形状や表面の細かな傷、動力及び伝達機構のベアリング等が発するノイズの集合体です。

得られた音紋は過去に収集・蓄積されたデータベースに照合され、潜水艦の型式ばかりでなく、場合によってはどの個艦かまで識別できます。

しかし、識別結果を公表するのは自国の潜水艦探知能力を教えることになりますから必ずしも得策ではなく、あえて公表しないことも多くあります。

ですが、どの国の潜水艦かは私でも見当がつきます。

アメリカ・ロシア・北朝鮮・韓国・台湾・中国、この辺りが候補としてあげられますが、アメリカは国籍を明かさない理由がありません。

ロシアはそもそも沖縄付近に出てくる理由が思い浮かびません。北朝鮮は老朽艦ばかりですし、韓国も沖縄まで運用するような能力は持っていないでしょう。台湾はわざわざ沖縄近海の接続水域を通る必要がありません。となると、消去法で「中国艦」だと推測出来ます。

パッシブソナーで潜水艦の位置を特定し、対象が移動すれば更にソノブイを投下して追跡を続けます。

そして次なる段階が、アクティブモードに切り替えての精密な位置の測定です。俗に「ピンガー」とか「ピン」と呼ばれていますが、音波を発し、それが潜水艦に反射して返ってくる方位と所要時間を拾います。

ソノブイが発したアクティブソナーの音波は当然ながら潜水艦側のパッシブソナーでも拾えますから、この時点で追尾されていることが潜水艦側にも確実にわかります。それと同時、既に精密な位置を知られてしまっているのですから、もう勝負は決まっています。

そして戦時においては、次のステップへと進みます。哨戒機から対潜魚雷を投下し、敵潜水艦を撃沈する攻撃行動です。「哨戒機」と聞くと船や潜水艦を探してパトロールするだけの航空機だと思いがちですが、対潜魚雷や対艦ミサイルも搭載できますから、味方戦闘機が制空権を確保してさえいれば対艦対潜攻撃機としての活躍も出来ます。

「それなら沈めてしまえ」との意見もあるでしょうが、国連海洋法条約では他国の接続水域での潜行は明確に禁止されておらず、アクティブソナーを打って「いつでも沈められる」事を示しながら追跡を続け、追い払うことが事実上最大限の威嚇となります。ですが接続水域は公海ではなく領海に準じるエリアですから、無害通航、すなわち浮上して国籍を明らかにするのがルールです。

参考までに記すと、米ソ冷戦時においても対潜魚雷でのソ連潜水艦攻撃は行われませんでした。

2004年(平成16年)にも「国籍不明の潜水艦」が石垣島近海の「領海」を侵犯する事案がありましたが、この時は海上警備行動が発令され、海自のP-3C哨戒機は次々にソノブイを投下してアクティブソナーを打ち続け、50時間以上にわたって追跡を続けました。潜水艦艦長にとっては極めて屈辱的な事ですし、ソナー員はピンガーの音をずっと聞かされ続け、気が狂いそうになった事でしょう。

この事案は漢(ハン)級原子力潜水艦だった事がわかっていますが、この型は原子炉からの温排水が垂れ流しの為、軍事偵察衛星に赤外線探知されてしまう欠陥があります。よって、中国の北海艦隊青島海軍基地を出航した時点からアメリカの衛星に全てをトレースされていたわけです。

また、鋭い方は「投下したソノブイを敵に回収されたら不味いのでは?」と思われるでしょう。確かに探知機器の情報が漏れてしまいます。それを考慮し、一定時間経つと沈んで海底の藻屑となるように設計されています。

そして5月26日の追加報道により、海自の「ひびき」と米海軍の「インペッカブル」、2隻の音響測定艦が投入されていた事が明らかになりました。

音響測定艦は潜水艦の航行音の収集に特化した艦で、曳航アレイ探知装置を投入・曳航して海中の音を拾います。自らの発するノイズは最小限に留める必要がありますから、「ディーゼル・エレクトリック方式」機関を採用しており、予めディーゼルで発電してバッテリーを充電しておき、その電力でモーターを回して推進します。通常動力型と呼ばれる潜水艦と同じ方式です。

その為に速力が10ノット前後と遅く、ひびきは横須賀や呉に係留されていることが多いはずですから、すぐに駆けつけるのは難しいと思われます。米インペッカブルにおいても同様であり、これは中国潜水艦の活動が活発化していることを予め察知していて、沖縄に向かわせていたと推察されます。

この日米の特殊艦が同時投入されているのですから、ソノブイよりも遙かに精緻な音紋が採取されているでしょう。つまり、もうこの潜水艦の隠密性は失われました。詳細な音紋データがあると余分な雑音を取り除く際のフィルタ精度が格段に上がり、対象潜水艦の発見が容易になります。

そして今回は中国に釘を刺す事を優先したのでしょう。対象潜水艦は元級潜水艦(039A型)だったことが開示されました。元級はロシア製のキロ級潜水艦をベースに宋級を組み合わせた中国国産艦であり、ディーゼル・エレクトリックとAIP機関(非大気依存推進機関)を組み合わせた通常動力艦です。

推進方式で言えば、日本の最新潜水艦「そうりゅう型」と同じであり、中国にとっても2006年から就役を開始した新鋭艦です。AIP機関についてはフランスの技術をパキスタン経由で入手したとされています。

元級は現在8隻が運用中と見られており、最終的には20隻態勢になると推測されています。そんな新鋭潜水艦の詳細な音紋を取られては中国もたまりませんから、当然ながら妨害工作に出ます。海自のひびきはヤンナン級水上艦に追尾されていましたが、排水量2000トン未満の小型艦艇とはいえ、非武装のひびきには脅威となり得ます。睨みを利かす為、海自護衛艦がエスコートしていたでしょう。

更に別報において、長崎の佐世保にアメリカの「潜水艦母艦」が入港していた事が明らかになりました。潜水艦母艦は潜水艦に物資を補給したり、広い艦内で潜水艦乗組員を休息させるのが任務であり、補給物資を補充積載する為に佐世保に来たのでしょう。

現在の米潜水艦は全て原子力推進であり、攻撃型潜水艦は空母打撃軍に随伴して一気に太平洋を横断してペルシャ湾まで移動する事もありますから、水中最大速力は30ノットを超えます。

よって通常の態勢なら搭載食料ギリギリまで任務を継続した後、別の潜水艦と交代して基地に帰ればいいわけで、潜水艦母艦の出番はなく、普段はグアムに係留されています。よってこれは、グアム往復の時間すら惜しい程の潜水艦運用状態を意味します。

そしてアメリカが現在運用している潜水艦母艦は2隻だけであり、その姿はフィリピンのスービック港でも確認されています。潜水艦母艦1隻で最大4隻の潜水艦に対する同時支援が可能であり、相当数の米潜水艦が南シナ海の西沙諸島から南沙諸島あたりの深い海で活動していると見るべきでしょう。

それは沖縄・尖閣の東シナ海においても同様だと考えられます。まず間違いなく、日米中の潜水艦が集結しているわけです。これはかつての米ソ冷戦におけるソ連が中国に入れ替わった図式であり、新たな冷戦が既に始まっている事を意味します。

かつての大東亜戦争緒戦において日本の航空機戦力が米英戦艦を沈め、海軍の主役は長年の戦艦から空母へとバトンタッチされました。

ですが、空母戦力が強大なのはその艦載機の力であり、イージス艦等の護衛がなければ空母自体は対艦ミサイルや魚雷の格好の的でしかありません。戦艦自身が強力な攻撃力を持っていたのとは随分違うわけです。

また、水上艦は二次元の機動しか出来ませんが、潜水艦は「深度」を加えての三次元機動が可能であり、攻撃するにせよ、回避運動するにせよ、より自由度が高いと言えます。

そんな事もあり、潜水艦は「現代の戦艦」とも呼ばれます。大東亜戦争当時の潜水艦は魚雷で敵艦を攻撃できるだけでしたが、現代の潜水艦は大きな進歩を遂げています。魚雷は勿論のこと、機雷の敷設や対地・対艦巡航ミサイルの発射も可能ですし、垂直発射管を備えた戦略原潜は核弾道ミサイルを搭載しています。

米戦略原潜は核弾頭を積んだ弾道ミサイルを搭載し、アメリカ本土近海に沈んで待機するのが任務です。本土が核攻撃を受けた際の報復力を担保するのが目的であり、残存性の高さ故に大きな核抑止力となります。

勘のいい方は「海中では電波が減衰し、報復攻撃命令が受けられないのでは?」と思われるでしょう。

確かにそうです。攻撃命令にはELF(極々々超長波)という波長の長い通信波が使われ、水深100m程度まで届くとされています。ただし波長が極めて長いのですから自ずと通信情報量は少なく、陸上基地側に数キロに及ぶアンテナ設備の設置が必要で、どこでも利用できるわけではありません。

そしてSTART2(第2次戦略兵器削減条約)の影響を受け、計18隻を保有するオハイオ級戦略原潜も削減対象となり、1から4番艦までが非核搭載の巡航ミサイル原潜へと改造・運用されています。

そのトマホーク巡航ミサイル搭載数は垂直発射筒22基合計で154発と凄まじく、仮に2隻の巡航ミサイル原潜が敵地近くへ忍び込んで総攻撃をかければ、300発以上のトマホークが6分以内に放たれる事になります。

この飽和攻撃を防ぎきれるとは考えにくく、レーダーサイトを始めとする重要軍事拠点は破壊され、敵国は一気に無力化されてしまうでしょう。

このように、現代海軍力において潜水艦は極めて重要ですが、空母やイージス艦等の水上艦に比べると目に見える派手さはありませんから、一般の認識は低いと言えます。

その重要性は海洋覇権国家を目指す中国も当然理解しており、70隻弱の潜水艦を保有しているとされています。また、本土海岸線に多数ある潜水艦基地の改修・増強を進めており、海南島にも大規模な拠点を新設しています。そして2020年(平成32年)までに更に30隻を確保して老朽艦のリプレイスをしつつ、2030年には100隻態勢を整えると予測されています。

質・量共に世界最強とされる米潜水艦の保有数は75隻であり、このままでは数においては中国が世界最大となるでしょう。

日本にとって潜水艦は尖閣諸島を含む南西諸島防衛の重要な切り札であり、長年に渡って「周辺国への配慮」として16隻態勢を維持していましたが、これを2021年(平成33年)度までに22隻態勢に増強する予定です。

ただ中国の数の力は脅威であり、いくら海自の潜水艦が新鋭艦揃いだとわかっていても厳しいものがあります。更なる増強を期待したいところです。

そして中国潜水艦の脅威度が増し、日本以外のアジア太平洋諸国も潜水艦戦力の増強を予定しています。
オーストラリアは6隻の潜水艦を保有・運用していますが、これを12隻態勢へと増強する予定で、日本側に対して技術供与を打診しています。

ベトナムは今現在潜水艦を保有していませんが、ロシア製キロ級潜水艦6隻の購入を決めており、2016年(平成28年)までに納入される予定です。ベトナムは南沙諸島において最も多くの島や岩礁を占有しており、その防衛が重要な課題です。

マレーシアはフランス製スコルピオン型潜水艦2隻を購入し、既に受領を完了しています。

インドネシアはドイツ製チャクラ級潜水艦2隻を保有しており、2024年(平成36年)までに12隻態勢を確立する計画です。既に3隻の韓国製チャン・ポゴ級潜水艦の購入を決めていますが、これはドイツの設計した209型潜水艦を韓国が製造するものです。

ドイツは潜水艦先進国として定番ですが、果たして韓国に輸出レベルの潜水艦製造が可能なのかどうかは疑問符がつきます。何しろ自国においてすら「原因不明の不調」としてドックに入りっぱなしの潜水艦があるぐらいですから。

シンガポールは4隻の中古スウェーデン製スヨルメン級潜水艦を保有しており、更に4隻の中古スウェーデン製潜水艦を購入予定です。

タイは今現在潜水艦を保有していませんが、ベトナムを睨んで同程度の潜水艦を導入するだろうと見られています。 ≪つづく≫


軍事情勢レポート6 皇国の興廃この一戦にあり 1
http://ochimusya.at.webry.info/201306/article_4.html

軍事情勢レポート6 皇国の興廃この一戦にあり 2
http://ochimusya.at.webry.info/201306/article_5.html

軍事情勢レポート6 皇国の興廃この一戦にあり 4
http://ochimusya.at.webry.info/201306/article_7.html


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Link:

真の敵との戦い
http://ochimusya.at.webry.info/201306/article_3.html

軍事情勢レポート5 第一部 中共の野望
http://ochimusya.at.webry.info/201305/article_8.html

軍事情勢レポート5 第二部 韓国の軍事力
http://ochimusya.at.webry.info/201305/article_9.html

軍事情勢レポート5 第三部 中共の侵略の歴史
http://ochimusya.at.webry.info/201306/article_1.html

軍事情勢レポート5 第四部 中共海軍の軍事力
http://ochimusya.at.webry.info/201306/article_2.html

対中包囲網構築への道
http://ochimusya.at.webry.info/201305/article_1.html

軍事情勢レポート4 空軍力~防衛産業~朝鮮半島
http://ochimusya.at.webry.info/201305/article_2.html

軍事情勢レポート3 核の拡散と日本の決断
http://ochimusya.at.webry.info/201303/article_5.html

軍事情勢レポート2 開戦前夜は近し
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軍事情勢レポート1 牙を剥く中国と暴走する北朝鮮
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世界平和に貢献する日本の核武装
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国防アレルギーは滅亡への道 Part1
http://ochimusya.at.webry.info/201107/article_11.html

国防アレルギーは滅亡への道 Part2
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